雨の降るカフェと嘘

4/11
前へ
/328ページ
次へ
「二人は、高校生の時から仲がいいんやってね。二葉ちゃんがよく二人の話をしてくれてたんよ」  私の疑問を紐解くように秋帆さんは言った。 「二葉が?」  葵は目を丸くして念を押すように問うと、秋帆さんは首肯する。その瞬間、葵は身を乗り出すように勢いよく立ち上がった。 「あの、二葉があたしに黙っておらんくなった理由って、何かご存知ないですか……!」  両の拳を強く握りしめながら、必死に感情を抑えた震える声で彼女の欠片に縋り付く。 「二葉と喧嘩したつもりもないし、何も言わんとおらんくなった理由が全くわからないんです。あたしが何かしたんやったら、二葉とちゃんと話をして謝りたいんです」  泣き出しそうになりながらも声を絞り出し、葵は助けを求めるように告げた。しかし、秋帆さんは申し訳なさそうな顔で首を横に振る。 「私にはさっきも言った通りのことしか」  それでも葵は縋りつくような目で秋帆さんを見つめている。 「葵ちゃん」  両目に大粒の涙を浮かべる葵の名を、壱弥さんが静かに呼んだ。すると、彼女は強ばっていた体の力を抜いて、脱力するように椅子に座り直した。 「すいません……」 「いいえ、私こそ力になれへんくてごめんね」  角のない秋帆さんの柔らかい声が、午後一時を知らせる時計の鐘の音に吸い込まれていった。一度だけの鐘が止むと、静寂が再び押し寄せる。 「そういえば、あなた達の話する時、二葉ちゃんはなんか寂しそうな顔をすることもあったんやわ。葵ちゃんに対する気持ちは、好きとか嫌いとか、そんな単純な話ではないんかもしれんね」  秋帆さんはおっとりとした店内の空気に合わせ、ゆっくりと諭すように告げた。 「きっと、二人の姿をみて、羨ましいと思うこともあったんとちゃうかな」  途端、ずっと堪えていた涙が葵の両目からぽろぽろと零れ落ちた。
/328ページ

最初のコメントを投稿しよう!

848人が本棚に入れています
本棚に追加