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「二人は、高校生の時から仲がいいんやってね。二葉ちゃんがよく二人の話をしてくれてたんよ」
私の疑問を紐解くように秋帆さんは言った。
「二葉が?」
葵は目を丸くして念を押すように問うと、秋帆さんは首肯する。その瞬間、葵は身を乗り出すように勢いよく立ち上がった。
「あの、二葉があたしに黙っておらんくなった理由って、何かご存知ないですか……!」
両の拳を強く握りしめながら、必死に感情を抑えた震える声で彼女の欠片に縋り付く。
「二葉と喧嘩したつもりもないし、何も言わんとおらんくなった理由が全くわからないんです。あたしが何かしたんやったら、二葉とちゃんと話をして謝りたいんです」
泣き出しそうになりながらも声を絞り出し、葵は助けを求めるように告げた。しかし、秋帆さんは申し訳なさそうな顔で首を横に振る。
「私にはさっきも言った通りのことしか」
それでも葵は縋りつくような目で秋帆さんを見つめている。
「葵ちゃん」
両目に大粒の涙を浮かべる葵の名を、壱弥さんが静かに呼んだ。すると、彼女は強ばっていた体の力を抜いて、脱力するように椅子に座り直した。
「すいません……」
「いいえ、私こそ力になれへんくてごめんね」
角のない秋帆さんの柔らかい声が、午後一時を知らせる時計の鐘の音に吸い込まれていった。一度だけの鐘が止むと、静寂が再び押し寄せる。
「そういえば、あなた達の話する時、二葉ちゃんはなんか寂しそうな顔をすることもあったんやわ。葵ちゃんに対する気持ちは、好きとか嫌いとか、そんな単純な話ではないんかもしれんね」
秋帆さんはおっとりとした店内の空気に合わせ、ゆっくりと諭すように告げた。
「きっと、二人の姿をみて、羨ましいと思うこともあったんとちゃうかな」
途端、ずっと堪えていた涙が葵の両目からぽろぽろと零れ落ちた。
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