3.「こっち向いて!」

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3.「こっち向いて!」

 朝起きて、ウリ坊はとっても悲しい気持ちでした。  最近友達は、特別な日につける髪飾りの話ばかりしています。  その話を聞いて、ウリ坊は赤いリボンを思い出しました。  真ん中に赤いキラキラのビーズがついた、チェック柄のリボンです。  少し前に、お姉さんのお買い物について行った時、ハリネズミさんの店でみつけたのでした。  とっても欲しかったのに、その時はおこづかいが足りなかったのです。  だから、今こそ買おうと思ったのでした。  もう髪飾りを買ってもらった子達が、今日つけてくると言っていたので、昨日のうちに欲しかったのです。  朝ご飯もそこそこに、ウリ坊がメソメソ泣いていると、お姉さんが頭をなでてくれました。 「遅刻しちゃうよ?」  そう言って、動かないウリ坊の代わりに、学校に行く支度をしてくれます。  ウリ坊の頭を櫛で整えて、今日は赤い花を耳につけてくれました。  そして、お兄さんが持って帰ってきたキャンディの一つを、ウリ坊の口に押し込みました。  ミルクの優しさとハチミツの甘さが、悲しい気持ちを少しだけ包んでくれました。  お姉さんは、残った一つを、ウリ坊のポシェットに入れました。  ***  キツネ先生は、普段、毎日学校に来ているわけではありません。  週二回ある、音楽の授業の日だけ来るのです。  ウリ坊は、この週二回をとっても楽しみにしていました。  歌うのが好きで、キツネ先生のことも大好きだったからです。  もうすぐ発表があるので、子ども達は毎日歌の練習をしていました。  キツネ先生も毎日学校に来てくれました。  今日も、練習が始まる前に、子ども達がキツネ先生の周りに集まっています。  そこに、ウサギの女の子とイタチの女の子が進み出ました。  ウサギの女の子はリボンで出来た花飾りを、イタチの女の子はキラキラのビーズで星をかたどったカチューシャを、それぞれつけています。  ママに買ってもらったと、嬉しそうなウサギの女の子。  おこづかいで買ったのだと、誇らしげなイタチの女の子。  キツネ先生がにこにこ笑ってくれます。 「よく似合ってますよ。」  ウリ坊は、ぷぅーっと頬を膨らませました。  本当なら、自分もあそこにいたのに。  ああやって、先生に褒めてもらえたのに。 「なんだ、ウリ。お前、キャンディでも食べてるの?」  クマの男の子が、ウリ坊のふくれっ面をからかいました。  ウリ坊は、ぎろっとその子をにらみました。  そして、はっと思い出しました。  ポシェットからあわててキャンディを取り出すと、先生の下へ駆けていきます。 「先生、先生っ。先生、甘いもの好きだよね?」 「え?はい、好きですよ。」  不思議そうにしながらも、先生はうなずいてくれました。  ウリ坊は最後のキャンディを、先生へ差し出しました。 「これあげる!お兄ちゃんにもらったの!すっごくおいしいの!」 「へえ、ありがとうございます。」  キツネ先生は、キャンディをそっとつまみ上げて、にっこり笑ってくれました。  嬉しくて、ウリ坊の耳がピコピコ動きます。  先生の目が、ウリ坊の耳に向けられます。 「いつもつけている花は、お家で育てているものですか?」  先生がそう聞くと、ウリ坊はうなずきました。  先生が笑みを深くします。 「とってもきれいですね。よく似合っていますよ。」  先生は、ウリ坊の頭をぽんぽんとなでて、みんなを振り返りました。 「さあ、そろそろ練習を始めましょうね。」 「はぁーいっ!」  良い子のお返事をして、子ども達がパートグループに分かれます。  ウリ坊もぼんやりしながら、みんなに交じりました。  何だか、胸がムズムズして、頬が熱くなりました。  ***  歌の練習が終わると、ウリ坊は学校を飛び出しました。  走って走って、突撃するようにお家に飛び込みました。  そして、花の世話をしていたお父さんの、丸いおなかに飛びつきました。  突然のことに、花がらをつまんだまま、お父さんは目を見開いています。  ウリ坊は、おなかに抱きついたまま、お父さんを見上げて言いました。 「お父さん、お父さん。わたし、お花つけてく。発表の日も、お家のお花つけてくよ!」  お父さんは、しばらく目をぱちぱちさせた後、嬉しそうに笑ってくれました。  → 87fbe593-ea6d-4055-8c48-06d5c6db4276
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