5.「ありがとうございます。」

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5.「ありがとうございます。」

 ウサギ達の農場は、森の外れにありました。  ある日の夜、寝ていると、外からとっても大きな音がして、白ウサギは飛び起きました。  まるで怪物が歌っているような不気味な音が鳴り止まず、白ウサギは震えました。  一晩中、お母さんが抱きしめてくれました。  朝になり、みんなで家の外に出ると、大事な野菜を守るビニールハウスが、破けたり、ひっくり返ったりしていました。  強い強い、風のせいでした。  急いで直さなくてはいけません。  野菜の無事も確認しなくてはいけません。  でも、約束の時間までに、野菜をエダツノ屋とドングリ食堂に届けなくてはいけません。  白ウサギは言いました。 「わたし、一人で届けられるよ!だから、お兄ちゃんはみんなを手伝ってあげて。」  毎日行っているのです。  一人でも道は分かります。  泣き虫で怖がりな自分ですが、大変な時こそ、みんなの役に立たなくてはいけません。  みんなは心配しましたが、やはり、畑の修繕に人手が欲しかったのでしょう。  白ウサギを送り出してくれました。  ***  白ウサギは情けない気持ちでいっぱいでした。  遅刻してしまったうえに、野菜を運び入れるのを、シカさん達にやってもらってしまいました。  お客さんに迷惑をかけるなんて、一番やってはいけないことです。  しかも、心配してくれたキツネ先生に、失礼な態度を取ってしまいました。  白ウサギは、大きな動物が何だか怖くて、上手にお話が出来ないのです。  それでつい、お兄さんウサギの後ろに隠れてしまうのでした。  しかし、いつまでも落ち込んでいるわけにはいきません。  荷車に半分残っている野菜を、ドングリ食堂に届けなければいけません。  白ウサギは、手に足に、耳の先にまでぐぐっと力を込めて、荷車を引っぱりました。  ドングリ食堂に向かって、森を進みました。  ***  ドングリ食堂の、オレンジ色の屋根が見えてくると、白ウサギはほっとしました。  ギリギリ時間に間に合いそうです。  その時、ビュウッと強く冷たい風が吹きました。  白ウサギは思わず、目をつぶって、ぎゅうっと体を縮めました。  ばさっと布がひるがえる音がして、白ウサギの小さな頭が、冷たい風にさらされます。  びっくりして目を開けると、赤い頭巾がひらっと飛んでいくのが見えました。  結び目が緩んでいたのでしょうか。  白ウサギの頭巾が、飛ばされてしまったのです。  頭巾は、高い木の枝に引っかかりました。  白ウサギは荷車から離れて、木の根元まで行きました。  枝を見上げます。  背伸びしたって、跳ねたって、届きません。  白ウサギは、木登りが得意ではありません。  あそこまで登れません。  白ウサギは、にじんだ涙をぐいっとぬぐいました。  また遅刻するわけにはいきません。  頭巾は放って置いて、配達を優先しなくては。  白ウサギは、荷車へ戻ろうとしました。 「ユキ?どうしたんだ?」  目の前に、コック帽を被ったキタリスがひょこっと現れました。  ドングリ食堂のキタリスです。  キタリスは、心配そうに白ウサギの顔を見上げていました。  そして、コック帽が落ちそうなほど首を反らせて、枝の頭巾に気がつきました。  キタリスが、白ウサギの手をぽんぽんと叩きました。 「ちょっと待ってな。」  キタリスは、するするっと木を登ると、あっという間に頭巾を手に降りてきました。  ぽかんとしている白ウサギの手に、頭巾を返してくれました。  キタリスは不思議そうに荷車を振り返ります。 「ユキ一人か?大変だったろ。」 「だいじょうぶです。すぐ運びますっ。」  白ウサギは急いで荷車に戻ります。  白ウサギが荷車を引くのを、キタリスは後ろから押して手伝ってくれました。  ドングリ食堂の裏口に着くと、キタリスは言いました。 「その辺にどんどん積んでいいぞ。俺達が中に運ぶより、クロクマにやらせた方が早いだろ。」  キタリスは、フサフサのしっぽを揺らして、食堂の中へ戻ろうとします。  そこでようやく、白ウサギは自分が手ににぎったままの頭巾のことを思い出しました。 「あ、あ、ま、待ってください!」  白ウサギが叫ぶと、キタリスが立ち止まってくれました。  白ウサギはきょろっと荷車に視線を巡らせて、キャンディの白い袋をみつけました。  急いで袋を開けて、中のキャンディを数個、ハンカチで包みます。  その包みをキタリスへ差し出します。 「ありがとうございました。その、もらいもので、申しわけないんですけど、良かったら……。」 「別に、礼をされるようなこと、してないだろ?」  キタリスが困ったように言いました。  白ウサギは首を横に振ります。  本当に困っていたところを助けてもらったのに、お礼が少しも出来ないなんて、それこそ困ってしまいます。  そう考えて、白ウサギは思いました。  そうだ。  今日は、みんなに助けてもらってばかりでした。  キタリスはぽりぽりと頬をかきながらも、受け取ってくれました。  白ウサギは張り切って、荷車から野菜を下ろします。  そして、ある決意をしました。  明日は、お兄さんの後ろに隠れずに、うつむいたりもせずに、みんなにきちんとあいさつします。  そして、シカさん達とキツネ先生に、改めてお礼を言うのです。  → bbbbb82b-89e2-4a5f-ae0d-86d458dc1fdf
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