8.「ただいま。」

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8.「ただいま。」

 数日前、ずぶ濡れになったせいで、シマリスは熱を出してしまいました。  看病してくれたお母さんにも、お見舞いに来てくれた友達にも、ずいぶん心配をかけてしまいました。  でも、どうして体を濡らしてしまったのかは、言えませんでした。  きれいな木の実を取ろうとして、足を滑らせたなんて、恥ずかしかったからです。  ***  元気になった日の朝、シマリスは服屋へと急いでいました。  寂しがりやのハリネズミを、ずっと一人にしてしまったので、心配だったのです。  ベッドの中でみんなに心配されながら、シマリスはずっとハリネズミのことを考えていました。  クロクマにもらったキャンディを大事に抱えて、シマリスは走りました。  ***  シマリスが、服屋に着くと、まだ窓が閉め切られていました。  ハリネズミは、まだ眠っているのかも知れません。  シマリスは、そぉーっとドアを開けました。  薄暗い中をきょろっと見渡します。  手前に並んだ服達には、列ごとにまだカバーがかけてありました。  シマリスは、キャンディを奥のテーブルに置いて、窓を開け始めました。  順々に、外の光が店の中に注がれていきます。  途中、シマリスは窓際のシクラメンに気がついて、ふふっと笑いました。  明るくなると、店の奥に並んだものが、シマリスに見えてきました。  赤いポンチョが9着、吊されていました。  シマリスが休む前は、3着しかなかったはずです。  シマリスが寝込んでいる間に、ハリネズミが6着も作ったということでした。  いつも以上の仕事ができるくらい、ハリネズミは元気だったようです。  シマリスはほっと息をつきました。  でも、すぐに額にしわを寄せました。  ハリネズミ一人に、いっぱい仕事をさせてしまいました。  がんばってくれたハリネズミのためにも、シマリスは休んでいた分を取り戻さなくてはいけません。  シマリスは、ぐっと両手をにぎって気合いを入れました。  その時、奥のドア向こうから、トタトタと足音が近づいてきました。  ドアが開いて、ハリネズミが入ってきました。  ハリネズミは、パチパチと目をまたたかせました。  店の中がもう明るいことに、びっくりしているようです。  そして、シマリスをみつけて、その目がきらりっと光りました。 「シマリス!」  ハリネズミが、シマリスの下へとトタトタ走ってきます。  シマリスは両手を広げて、ハリネズミを抱きとめました。  後ろにちょっとよろけます。  ハリネズミは、シマリスをぎゅっと抱きしめて、ぴょんぴょん跳ねました。 「よかった!元気になったんだね!」 「はい。ご心配おかけしました。」  シマリスが苦笑します。  ひとしきり跳ねて満足したのか、ハリネズミが離れました。  ぐいっとシマリスの手を引きます。 「もうご飯食べた?」 「食べました。」 「えー?」  一緒に朝ご飯を食べたかったのでしょう。  ハリネズミは不満そうに声を上げます。  しかし、すぐにぱっと顔を輝かせました。 「そうだ!ミルクティいれてあげる!一緒に飲もう!」  ハリネズミはそう提案して、またシマリスを引っぱって行きます。  うなずいたシマリスは、テーブル横を通った時、キャンディに目をとめました。  そうだった。  お土産があったんだった。 「ハリネズミさん。クロクマくんに、キャンディいただいたんですよ。」  クロクマが買ったキャンディなら、おいしいはずです。  ハリネズミも気に入るでしょう。  そう思って教えると、キャンディに目を向けたハリネズミが、嬉しそうな声をあげました。 「あ!ハニーミルクキャンディ!」  シマリスは首をかしげました。 「あれ?知ってるんですか?」  シマリスは初めて見たのに。  ハリネズミが、うん、とうなずきました。 「エダツノ屋でね、新発売なんだよ。クロクマくんも食べてるんだね。……もしかして、大流行中?」 「まあ、大変。一度も食べてないなんて、わたし、流行に乗り遅れてしまっています。」  シマリスが大げさにびっくりしてみせると、ハリネズミがクスクス笑いました。  ***  ハリネズミが朝ご飯を食べ終わると、二人は並んで赤い毛糸を編みました。  分け合ったキャンディがおいしくて、  久しぶりのおしゃべりが楽しくて、  ポンチョはあっという間に編み上がりました。  ○ a72d8c2d-81ef-4a53-accd-6c655474ff54
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