D坂

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此は黄泉とうつしくにとの堺なり。平坂と云は、なだらかなる意なり   記伝        D坂一丁目 路上にて① 「そういえば、このあたりさ。よくない噂があるらしいよ?」 「噂?」 「そう。何ていうのかな。失踪とか行方不明? そういうのが多いんだって」 「え~? 何それ。意味不明なんだけど?」 「う~ん。よく知らないけど。ここ、駅前から坂が続いて・・・ずっと住宅街じゃない? そのあちこちの家でね。突然、人がいなくなるんだって」 「何それ? 誰かに連れていかれちゃうわけ? ラチってやつ?」 「ちがうって。  コレもね、よくわかんないけど。  たった今までそこにいたはずの相手がさ。次の瞬間、いなくなってるとか。なんか、そういうカンジなんだって。  犯罪とか。ワケありで。自分でどこかに行っちゃうとか家出とか。そういうんじゃぜんぜんなくて。  子供とか老人とか関係なし。  いつもみたいに会話して。家事をしていて。遊んでいて。そこまではフツ―だよね。  で、ほんの少し目をはなしたら・・・もう、そこにはいないって。  他のパターンだとぉ。  あたりまえに仕事や学校に行くよね。買物でも何でもいいんだけど。  それでーー帰ってこない。  そのまんま。二度と家に戻ってこないとかなんとか」 「怖~! でもでも、そんなことが起こったら。ふつーニュースになったり。大騒ぎになったりするんじゃない?」
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