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「ああ……生と死を常に意識しなければいけない仕事に身を投じるここの戦士達が、一時の安らぎとぬくもりを求めて来る場所が、ここ『カフェ・ブレイク』なんだ」
「ここがあるから、息抜きが出来る」
「そう。自らの生と死、巨大怪獣や自然災害の脅威、様々なトレーニングや訓練による肉体面と精神面の鍛錬……たくさんのストレスにさらされる辛い日々だが、ここでコーヒーを飲む為に頑張ってるといっても過言じゃないだろう……」
鴨野の話を聞いていた彩女は、ふと思い出した。
「私がまだ高校生で夏休みだった頃、ここで手伝いをしてた時に母から言われたの。『また飲みに来てみたいな約束事を、ここのお客さんと簡単に結んじゃ駄目よ』って……あれって一体……」
「……お客さんに深く干渉するなって事じゃないか? 常連客についてあれやこれや知って家族のように絆を深めたら、ある日突然失ったときに心に深く傷を負うだけだ……狭く深く少ない人々じゃなくて浅く広くたくさんのお客さんと軽い気持ちでどうでも良い事を何度もペチャクチャペチャクチャ喋る事が、何度も今生の別れを経験してきた母さんが店を長く切り盛りする事が出来た秘訣なんだろう……『カフェ・ブレイク』の店主は、それなりタフじゃないと長くは出来ないぞ」
その鴨野の言葉に彩女は少し表情を強張らせたが、ものの数秒で何か決心したようないつもの凛々しい目つきで鴨野の目を見た。
「ま、大丈夫だろ。彩女ちゃんなら」
「……はい!」
しばらくしてドアが開き、フライトスーツを着た若い男性のお客さんが入ってきた。そのお客さんに気付き、彩女はドアの方に向いて立った。
「いらっしゃいませ」
そのお客さんは、メニューを見ずに彩女に注文した。
「バニラティー貰えますか?」
「えっ、バニラティー? ありがとうございます、少々お待ちください」
END
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