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「え? ぼく?」  聞こえる筈もない間抜けな音を出し、右手で自分自身を指差すと、上から楽しそうな声が降って来た。 「君だよ、君! 君に手を振ってるんだよーっ」  全身で飛び跳ね、大きく手を振る彼女は「ちょっとこっちに来なよー」と叫んでいる。  初対面――しかも、彼女もぼくも、はっきり顔が見える位置にいるわけではない。  にも関わらず、ぼくを指差し、ぼくを呼ぶ。  自分以外……いいや、自分にすら興味のないぼくは、いつもなら得体の知れない相手からの誘いなど見向きもしない。  けれど、これが俗に言うところの運命だったのだろう。  それが仕組まれたものなのか、それとも偶然だったのかは、今ここでぼくが話すことではない。  ただ何故か、自分の環境が一変するような期待と好奇心で胸がドキドキするのを感じ、衝動的に彼女のもとに駆け出したことだけが、ぼくの中の事実として残っているのである。
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