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病院というのは、怪我や病気の治療をする場所である。
健康な人間が足を踏み入れる理由としては、患者の付き添いや、入院患者へのお見舞い、それに、業者や病院関係者ぐらいなものだろう。
健康な人間が見知らぬ誰か……しかも、これは予想でしかないのだが、相手も健康体である誰かに会うために病院を訪れるなんてこと、ぼくは聞いた事がない。
そんな馬鹿なことをする奴がいるのだとしたら、何て不謹慎なんだと蔑んだ目で見るだろう。
何故、ぼくは“そんな馬鹿なこと”をしているのだろうか?
きっとそれは、たった一瞬でも、冬に花吹雪が舞う景色を見せてくれ、ぼくの情熱を揺さぶった魔法使いに会いたいと無意識レベルで感じたからなのだろう。
種明かしをすれば、それがただの紙屑であったとしても、確かにこの目に映り、心に刻まれたものは、ぼくにとっては幻想的な美しいものであったことには変わりはないのだから。
夕方で混み合っている待合室を通り過ぎる。
奥にあるエレベーターがタイミングよくやってきた。
いまさらぼくは、彼女が屋上に呼び寄せておきながら、自分はさっさとその場から立ち去っているのではないかという疑念と、もしも居たとしても、一体何を話せばいいのだろうかという妙な緊張感を抱えながら乗り込んだ。
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