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「実はうちの両親、離婚していてね。あれは中学校に上がる直前だったかな……母親はぼくを捨てて家を出て行ったんだ」  顔を真正面に向けたぼくは、隣に座っている彼女に向かって話しているというよりも、独り言をただ聞いて貰っているといった感じなのだが、それが却って吐き出しやすかった。 「それから程なくして父は再婚。美咲さん……あ、継母のことなんだけどさ。他人行儀ではあるけど、別に意地悪をされたことはない。家のことはきちんとしてくれるし、学校行事にだって来てくれる。世間から見たら“幸せな家庭”なんだと思う」  初めて会った相手にこんな重い話をされて、どんな表情で聴いているのか気になったぼくは、チラリと横目で見ると、背筋をピンッと伸ばしたまま顔だけは、ぼくの方を向けていた彼女と目が合った。 「なんだと思うってことは、君はそうは思っていないんでしょ?」  ぼくの告白に、同情や憐れみといった言葉を投げかけることもなく、淡々とした口調で指摘した。 「でも、その気持ち。わたしは理解出来るよ」 「え?」  母親が入院したとはいえ、本当の家族と幸せに暮らしている彼女に、ぼくの気持ちのどこが分かるというのだろうか?  上っ面だけの慰めの言葉ほど、心を抉るものはない。  さっきまでは、自分とは全く違うタイプの彼女に、どこか惹かれるものを感じていたのだが、急に頭の中が冷えていく気がした。
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