166人が本棚に入れています
本棚に追加
ぼくと似たような境遇、似たような年頃でありながら、自分の意見を押し付けるのではなく、自分で自分を納得させているように話しているからこそ、彼女の言葉を素直に受け止められるのかもしれない。
母はぼくを捨てて出て行ったと思い込んでいたけれど、実は、ぼくを父の元に置いていくという選択肢しかなく、泣く泣く一人で立ち去ったのかもしれない。
そして、今もこの世界のどこかでぼくを想ってくれているのではないかという希望が生まれ、なんだか少し救われた気になった。
「というわけでえー。君がわたしを羨ましく思うことは何もないのだよ」
いつの間にか立っていた彼女は、あの独特な“カッカッカッ”という笑い声をたてて、ぼくの肩をポンポンッと叩いた。
「それじゃ、本題に入りましょっか」
ニヤリと口角を上げた彼女が、ぼくの肩に腕を回した。
「本題?」
小首を傾げると、不服そうに頬を膨らませる。
「もーう。迷える子羊ならぬ悩める青年の話を聴きだすために君を呼んだわけじゃないんだよ?」
そういえばそうだった。
ぼくは彼女に呼ばれてこんなところまで上がってきたんだった。
LED照明のお陰で、屋上内は明るいが、空を見上げると、儚い紺青が広がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!