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「深い蒼だ……」
「え?」
「あっ……ううん。もう、この場所、閉められちゃうのかなって思って」
最初に零した言葉がよく聞き取れず、再度聞き直すと、どうやら彼女は、日の暮れた空を見たぼくが、この場所の閉鎖時間が迫っていることを心配していると思ったようだ。
「いいや。ここは消灯時間の一時間前までは患者の癒しの場として開放されているっていう話だから、まだだよ」
「そっか、ならよかった」
「まあ、ぼくはあまりよくはないけどね」
胸を撫でおろした彼女とは反対に、ぼくは自分の腕に巻いた時計に目をやる。
時間を気にするぼくを見て、彼女が驚きの声をあげた。
「うそ! デートか何か予定があった? え? でも、そんな気配ないよね?」
「ちょっとそれは失礼じゃないかな」
十人中八人は綺麗だとか整っているだとかの評価を得るであろう彼女の顔面偏差値に比べたら、確かにぼくの顔は遠く及ばない。
けれど、中の上……いいや、せめて中の中……なんなら、中の下でもいい。
兎に角、不細工とまでは言われない容姿をしているとは思っているし、こういっちゃなんだが、過去に数人ほどではあるが、告白だってされているんだ。
人の顔を見て、デートの相手すらいないと断言されるのは心外だ。
口を尖らせ、不機嫌さを露わにすると、彼女はぼくの気持ちを察してか、慌てて否定した。
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