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「ねえ」
ふいに声をかけられ振り向くと、両手で何枚もの画用紙を抱えた彼女と目が合った。
「さっきはなんで足を止めてくれたの?」
なんのことを言っているのか分からず、小首を傾げたがすぐに学校の帰り道である桜並木でのことを思い出した。
「あれさ……こんな真冬に桜吹雪が舞うなんて有り得ないだろ? でもぼくには僅かな時間だったけれど、その有り得ない光景が目の前に現れたんだ。誰だって驚くし、目を奪われるんじゃないの?」
あの時、あの場所にはぼく以外にも人はいた。
でも、ぼくはあの束の間の夢のような景色から目が離せないだけでなく、この感動の瞬間を撮りたいと、頭で考えるよりも先に、心が感じるままに体が動いていた。
あとは夢中でシャッターを切っていただけで、ぼく以外の人間が何をしていたかなんていうことは知る由もない。
ぼくの答えを聞いた彼女は、少しだけ目を見開いた後、口元を緩めた。
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