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 目の前に(かざ)すと、心浮かれていたひとひらは、細かく千切られた紙。  幽霊の正体見たり枯れ尾花だとか、大山鳴動して鼠一匹だとか言うけれど、実体を確かめてみると、平凡……いや、平凡以下だというオチはよくある。  芸術なんていうものには、往々にしてよくあることだ。むしろ、その平凡をいかに美しく、いかに情熱的に描くのかが作者の腕の見せ所だといっても過言ではないだろう。  僅かばかりの白昼夢を見た僕は、自分が抱いた感動そのものをカメラに収めることが出来たかどうかが気になっていた。  しかし、道路一面に散らばる細かい紙の破片を目にして溜息をつく。再び視線を上げ、紙吹雪の出処を探す。風上へと顔を向け、そして斜め上へと目を向けた。 「青葉病院か……ん?」  桜並木沿いには住宅が立ち並んでいる。  その中で、周囲よりも頭一つ抜けた高さの真っ白な建物は、市内で一番大きな総合病院。  九階建ての建物を見上げると、屋上に設置された転落防止用のフェンス越しに両手を振っている人が目に入った。
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