1/7
167人が本棚に入れています
本棚に追加
/302ページ

「さみぃな……」  この地域は関東山地のお陰で、北からの季節風が直接入ってこない。それでも、寒いものは寒い。  マフラーに顔を埋め、ズボンのポケットに両手を突っ込む。  季節は十二月中旬。  手袋や厚手の靴下を履いていても、手足が(かじか)み凍えそうだ。けれど、冬はこれからが本番である。寒さのピークに向かって更に気温が下がっていくのかと思うと、正直げんなりした。  家から学校までの間には、武家屋敷が集まっていた風情ある小路を通る。  今は閑静な住宅街ではあるものの、当時の趣がところどころ残っているだけでなく、何十本と植えられた桜並木道が東西に真っ直ぐ伸びていた。  春になると薄桃色の花たちが道行く人を歓迎してくれ、夏は鮮やかな緑の葉が繁り、刺すような日差しから守ってくれる。
/302ページ

最初のコメントを投稿しよう!