隙間

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恐怖のせいか、それとも押し入れのナニカの力なのか、竜二の身体は己の意思に反して動こうとしない。声をだすこともできず、竜二の叫びは喉の奥を微かに震わせるだけだった。 視線を逸らすことも、目を瞑ることもできず、強制的に隙間を見る形になる。隙間からのぞいた指が少しづつ襖を横に滑らせる。その隙間の向こうに、ゆらゆらっと何かが揺れていた。──長い頭髪。 顔半分までに開かれた押し入れから、カクン、カクンと不規則に揺れる頭部。それは、電池の切れかけたオモチャのように、止まっては少し動く、止まっては少し動くを繰り返している。 ちらちらと長い黒髪の間から見え隠れする三白眼がこちらをじっと睨み付ける。 早く逃げなくてはと気持ちだけが空回りするが、身体は動かない。そんな竜二の思いとは裏腹に、ゆっくりとだか確実に襖は横に滑り、ナニカが少しづつ姿をあらわした。 チョークの粉でも塗りたくったような白い皮膚。髪の毛の隙間から覗く唇は酷く赤い。それは、口紅を引いたような赤ではなく、熟れた果物にでもかぶりついたような濡れた赤。 その口が何かを囁いた。すると突然、竜二の胸にきゅうっと痛みが走った。心臓を小さな手に掴まれたような感覚。その手は竜二の心臓を握り、ゆっくりと力を加えていっているように感じた。 隙間が拡がるのと同時に握る力が強くなる。目に見えない力に抵抗できるわけもなく痛みで呼吸もままならない。ギリギリと痛む苦痛にただただ耐える。 やがて、頭のてっぺんを隙間から突き出したナニカは、竜二の目の前で止まり、ゆっくりと顔を持ち上げた。恐怖と痛みが絶頂に達し、そこで初めて竜二の叫び声が部屋に響いた──。
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