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部室棟は新校舎の隣にある。そこそこボロいが広さだけは十分だった。
校舎から行くには一度昇降口を出る必要がある。新校舎をぐるりと裏へ回り込むルートでグラウンドを目指すと、その手前に古い木造アパートみたいな佇まいの部室棟が現れる。
授業が終わるとまず部室へ直行して着替え、備品類を運びながらグラウンドへ移動する。各自で軽いアップやストレッチをする時間をとってから、全員でのアップに入るのが普段の流れだった。
いつものようにアップを始めようとして、俺は右膝のサポーターを忘れたことに気づいた。
最悪なくてもいいようなものではあったが、少し考えて、取りに戻ることに決める。まだアップに入っていない奴もいるくらいだし、時間は余裕があった。
マネージャーから鍵をもらって、肩や手首を回しながら歩いて部室まで戻る。
無人の部室でサポーターを手早く装着し、スパイクを履き直して再び外へ出ると、聞き慣れた声に名前を呼ばれた。
「水島ぁー」
グラウンド側からではなく、校舎側でもない。部室棟の向こうから呼ばれたような、変な感じがした。
声の出処を探して周囲を見回すと、見間違えようのない茶色い頭を見つける。
ボロボロの部室棟の裏に張られている、黒いフェンス。学校の敷地を一周ぐるりと囲んでいるもので、外側は公道だ。
そこに達規が立っていた。
「ちょうどよかったあ。すげータイミング。奇跡」
胸あたりまでの高さのフェンスに寄りかかって、達規はへらへら笑いながら手招きをする。近づくと、
「水島にこれあげる」
そう言って、手にしたペットボトルを俺に差し出してきた。
スポーツドリンクといえば、の青いラベルに、半透明の中身。受け取ると、空いた手で達規は校門の方向を指差した。
「バス停のとこにさ、自販機あんじゃん」
校門から数十メートル離れたバス停は、俺も通学時に通る。思い起こすと確かに、利用したことはないが、自販機が一台あったかもしれない。それがどうした。
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