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指定されたお店はこぢんまりとしたオシャレなバーだった。
中に入ると田中さんがカウンターにひとりで座っていた。
「あれ?しょうちゃんは…」
「渋谷?来ないよ」
田中さんはしたり顔で私をちらっと見た。
えっ?やられた!
「じゃあ帰ります!!!」
いくらなんでもしつこ過ぎる。
そこまでそうちゃんのことが嫌いなの?
それとも私に対する嫌がらせ?
頭にきてさっさと帰ろうと引き返した瞬間、私の腕を掴み、ぐいっと引き寄せた。
「嘘ついてごめんね。
でもこうでもしないと来てくれないでしょ?」
田中さんは涼しい顔をして平然と言う。
「離してください!」
「せっかくだから一杯だけ付き合ってよ。話したいことがあるんだ」
その時お店のドアが開いた。
現れたのはそうちゃんだった。
そうちゃんはこちらへ突進して来るなり私の腕を掴む田中さんの手を勢いよく払いのけ、私を自分の方へ引き寄せた。
「田中さん、どういうことですか?」
冷静ではあるけれど低く怒りに満ちた口調。驚いてそうちゃんを見ると、今にも食ってかかりそうな怖い顔をして田中さんを睨みつけていた。
「一緒に飲みに来ただけだよ。別に桜井に許可を取る必要もないだろ?」
田中さんもジロリと睨むようにそうちゃんを見る。
「オレたち付き合ってるんで、勝手なことをされても困ります。じゃあ連れて帰りますから」
そして
「帰るぞ」
と、私の手首を掴み、引っ張られるようにお店を出た。
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