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稲村が思案顔で打ち明けることには、客単価が想定を下回っているという。
「あまりワインに詳しくない人が多くて、なかなか二杯目、三杯目に手が出ないみたいなんだよね。中にはビールだけで帰っちゃうお客さんもいるんだ」
「そりゃ勿体ないですね」
せっかくこんなに充実した品揃えなのに、と雫は各テーブルに置くワインリストを手に取る。イタリアワインを中心としたラインアップの豊富さを反映して、リストはしっかりと分厚い。
「……ん?」
いや、いくらなんでも分厚すぎやしないか。
スウェード調のカバーがかかったそれはちょっとした冊子以上の厚みがあり、ずしりと重たい。何か間違えたかとページを繰って確認した雫は、唖然とした。
元凶はこれだったか。
「稲村さん。このワインリストって」
「ああ、オーナー渾身の作だよ。丁寧だろ?」
「丁寧、ですね……確かに」
それはワインリストというより、各ワインの解説書だった。銘柄ひとつにつき少なくとも半ページは使って、細かい字でびっしりと説明がある。その説明も、産地、葡萄品種、味の特徴に留まらない。
「ここの葡萄畑の古木には一本ずつ名前がついていて、まるで家族の一員のように大切にされています」
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