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にっこりと微笑みかけると、彼女たちはぱっと表情を明るくさせる。
「えーそうなんですか」
「店員さんのお勧めなら、試してみようかな」
こういうときは、母親譲りのこの容姿に感謝する。ふんわりと自然な癖のある柔らかな髪に、色白の肌。睫毛の長い、くりっと大きな目。「小動物系」などと言われることも多いが、警戒心を抱かせない程度に整った顔立ちは接客にはプラスだ。
「ご一緒に、イチゴとクレソンのサラダなんていかがでしょう」
これまた春らしい華やかなメニューを勧めると、わあ美味しそう、と歓声が上がる。浮き立つような彼女たちの様子に、雫も心がふんわりと軽くなる。
「二杯目以降もご相談に乗りますので、遠慮なくお声がけください」
厨房へオーダーを通しに行くと、稲村が眼鏡の奥の目を柔和に細める。
「さすが、板についてるねえ」
「ここはワインの品揃えも豊富だし、料理も一工夫あるものばかりなので、お客さまにお勧めしやすいです」
社交辞令ではなく本心だった。
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