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 百九十センチを超えるかという長身に釣り合う広い肩幅と厚い胸板。その体躯でありながら、少しも重さを感じさせない機敏な所作。  サイドも襟足もすっきりと刈り上げ、トップにはしっかりと櫛目を入れた髪型。髭も丁寧に剃られている。切れ長の鋭い目も真っ直ぐな高い鼻梁も、肉感的な唇も精悍な顎のラインも、すべて男らしい魅力に溢れている。  ただ、全体として醸し出す雰囲気があまりにも只者ではない。真っ先に連想したのは、洋画に出てくるイタリアンマフィアだった。それも、スイス銀行の口座の管理を一手に引き受けている切れ者の幹部だ。  まさかヤクザが経営している店だとは思いもしなかった。面接開始から五分と経っていないが、今すぐ席を立って帰りたい。 「しかも、シェ・ナカジマ、カフェ・イビサ、カステル・デル・モンテ、ビリエット……って、軒並み人気店ばかりじゃねえか」 「僕が入ったときは、どこもまだそこまで有名にはなってなかったんですが」  控えめに言い添えると、片瀬はぱん、と履歴書の表面を指で叩く。 「確かにどこも、ここ二、三年から数カ月くらいで急に評判になった店ばかりだな。お前が流行らせたってわけか?」  即座に切り返されて、ちょっと意表を衝かれた。普段なら面接を受けながらさりげなくアピールするのだが、先に相手から指摘されたのは初めてだ。     
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