§5

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 すると今度は、隣で同じものを食べていた稲村が大げさにむくれる。 「今のは俺に対する嫌味かなー」 「稲村は伸びしろが大きいから、それはそれで鍛え甲斐がある」 「はいはいわかってますよー。どうせ俺の味覚はハセやシズ君や犀利さんの足元にも及びませんよー」 「安心しろ、お前の舌はまともだ。俺や藤倉やオーナーが優秀すぎるだけだ」  クールに言い放つ長谷川に、稲村が「きいっ」とおしぼりの端を噛む真似をする。雫は遠慮なく笑い声を上げた。  この店で働き始めて五日目。開店準備を一通り終えて三人でまかないを食べるこの時間はスタッフミーティングも兼ねているのだが、毎回こんな調子だ。 「長谷川さん、このポークソテー、店のメニューに加えるんですか」 「そのつもりなんだが、もうひとつアクセントが欲しいな。藤倉、どう思う」 「緑をちょっとだけ添えると華やかになるかな。ミントなんてどうでしょう」  思い付きを口にすると、長谷川がぱちりと指を鳴らす。 「よさそうだな。よし、ルバーブゼリーにミントをあしらおう」  それを聞くや否や稲村が立ち上がって、ハーブを育てている厨房の窓辺のプランターからミントの葉を摘んできた。この自家製ハーブも稲村のアイディアだという。     
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