§5

5/6
503人が本棚に入れています
本棚に追加
/82ページ
 結局、寮に使える物件が見付かるまでという条件で、雫はあのまま半ば強制的に片瀬の家に留め置かれている。定休日の水曜日には、鎌倉の自宅から当面必要な私物を運ばされた。片瀬が自ら車を出してくれ、断るわけにもいかなかったのだ。  とはいえ、あの家が快適であることは否めない。店からは地下鉄で一駅で、いざとなったら歩いても帰れる。しかも片瀬は「一時的な措置だから」と家賃を受け取ろうとしない。 「犀利さん、今日の予定はなんて?」 「ええと、会社は休みなんで、自宅で仕事を片付けてから店の方に顔を出すって言ってました。軽く夕食を食べたいそうです」 「了解」  見た目はともかく、片瀬が「超」のつくくらい真面目で勤勉な経営者であることは、一緒に生活してすぐにわかった。  朝こそ普通の勤め人よりは遅いが、それでも午前中には自分の経営する会社へと出勤していく。日によっては深夜まで働き、帰宅後もなんだかんだと家で調べものをしたり資料をまとめたりしている。起きている時間は何かしら仕事をしているという印象だ。  そして、どれほど多忙でも、毎日必ず一度は「夜の猫」に立ち寄る。     
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!