§5

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 開店前のまかないミーティングに顔を出すこともあるし、営業時間中に「腹ごしらえだ」と何か食べていくこともある。早い時間に来られなかった日でも、閉店時間前後には必ずやってきて、何か変わったことはなかったかと確認していく。といっても、稲村から細かい報告を受けた後は特に何かを指示するわけでもなく、「任せた」と安心したような顔をして帰る。彼がこの店のスタッフを信頼しているのが伝わってくる。  こういうのを恵まれた職場というのだろう。むしろ、恵まれすぎていて落ち着かない。  同じ職場で半年と働き続けられなかった自分だ。一日が無事に終わるたびに、一体ここはどんな理由で去ることになるのだろうかと想像してしまって、気持ちが沈む雫だった。
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