§6

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 雫の声はどうしても冷ややかになる。 「あれ、知らないの? この近くに今度、僕の店の支店を出すんだけどなあ」 「支店?」 「そう。今度はリストランテじゃなくて、ちょうどこんな感じのカジュアルなバルスタイルにする予定なんだけどね」  そう言いながら、値踏みするような視線を店内に巡らせる。  城山は、かつて雫が勤めていた「カステル・デル・モンテ」という横浜のリストランテのオーナーだ。雫がいた頃から知る人ぞ知る店ではあったが、今では予約も取りづらくなっていると聞く。だが、都内に支店を出すという話は初耳だ。 「……ご注文は」  気を取り直して、店員の顔に戻る。城山は気まぐれのようにフードメニューを眺めると、うへえ、と顔を仰け反らせた。 「マンゴーとベーコンのアンティパスト? ちょっと奇抜すぎて味の想像がつかないな」  相変らず嫌味な奴、と雫はせっかく作った営業スマイルをしかめそうになる。 「マンゴーの濃厚な甘みはベーコンの塩分や旨味とよくマッチします。試してみる価値はありますよ」  実際、雫も試食させてもらって、長谷川のセンスのよさに脱帽した。     
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