§6

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「それなら、この店が忙しくなくなったら改めて口説きに来ることにしようかな」  無駄だ、と言い返そうとして、雫は城山の言葉の奥に潜む底意地の悪さに気付いた。 「……営業妨害でもする気ですか」  この男ならやりかねない、と思う。  城山は思わせぶりに肩をすくめると、分厚いワインリストをぺらぺらとめくって、すぐにテーブルの上に放り出す。 「そんなことするまでもなさそうだけどね」  莫迦にしたように鼻を鳴らすと、いきなり雫の手首をぐっと掴んできた。 「な……にを」 「辞めた経緯があんなだったから遠慮してるのかな。わかってるよ、あのときはいきなりで驚いたんだよね。僕は気にしてないから」 「離せっ」  嫌悪感のあまり、相手が客であることも忘れて乱暴に振り払う。  だが、逃げ出そうと階段の方を振り返った雫はその場に凍りついた。 「あ……オーナー」  階段の上がり口に片瀬がいた。  休みの日とあって普段よりカジュアルな服装だが、むしろスーツ姿より迫力が増している。胸元までボタンを開けた淡いパープルのシャツの上からオフホワイトのジャージー素材のジャケットを羽織り、下はくるぶし丈のデニムという出で立ちは、「ちょい悪」どころか隅々まで「極悪」感が満載だ。     
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