§6

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 雫と目が合うと、片瀬は怒りもあらわにつかつかと歩み寄ってきた。心臓が喉までせり上がってきたみたいに息苦しくなる。過去に働いていた店では、女性客と親しげに話していただけでオーナーにあることないこと告げ口され、「店の風紀を乱す」などと言いがかりを付けられたこともある。  しかし、片瀬は雫の脇を通り過ぎてテーブルの脇に立つと、見上げるような長身をソファ席の城山に向かって屈めた。 「うちの従業員に何か御用でしたでしょうか」  喉元に刃物を突きつけるような声に、城山が派手な眼鏡の奥で視線を泳がせる。 「いや、その……彼が以前僕の店で働いてたもので……懐かしいな、という話を」 「藤倉」  片瀬は牽制するように城山の顔に視線を貼りつけたまま、張りのある声で雫を呼んだ。 「はい」 「下で稲村がてんてこ舞いだ。戻ってやれ」 「はい」  痺れたように固まっていた肩から、ほっと力が抜けていく。 「申し訳ありませんが、店内も混んでまいりましたので」  城山には慇懃無礼にそう告げて、片瀬は雫のすぐ後に続いて階段を下りる。一階は言うほどは混雑しておらず、稲村も厨房に続くカウンターの端で心配そうにこちらを見ているだけだ。 「雫」  片瀬の呼び方が普段どおりに戻る。 「はい」 「面接で言ってたセクハラ案件というのは、あれか」  二階に向けて顎をしゃくる仕草が、いかにも忌々しそうだ。 「……そうです」  ぎりっ、と片瀬が歯を噛む音が聞こえた気がした。 「イナ」     
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