§6

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 片瀬は稲村を呼ぶと、雫が手に握ったままだった城山の注文伝票をするりと抜き取る。 「その前菜とプロセッコの料金はいらん。その代わり、追加オーダーは受け付けずにとっとと追い出せ。ゴネるようなら俺が行く」 「承知しました」  雫は仰天した。 「そ、そんな。相手はお客さんですよ!」 「店員に嫌がらせをするような奴は、少なくともうちの店の客じゃない」  片瀬は突き放すように言うと、雫の方を振り向いた。 「お前は、今日はもうこのまま帰っていいぞ」  雫は慌てて首を振る。 「大丈夫です」  先ほど城山に握られた手首には、まだ嫌な感触が残っている。軽い吐き気さえする。それでもこんな理由で今、ここを放り出されたくはなかった。  だが、片瀬は難しい顔で腕を組む。 「無理をするな。お前に嫌な思いをさせてまで働かせるつもりはない」 「……え?」  一瞬、何を言われたのか理解できなかった。  どうやら怒られたわけではないらしい。それどころか、雫の気持ちを思いやるような言い方にぽかんとしてしまう。  片瀬は怪訝そうに眉をひそめた。 「何を驚いてる。そんなの当たり前だろう」  そんなの全然、当たり前じゃない。 「お前が抜けた後は俺が代わりに入ろう」  片瀬は真顔でそんなことまで言う。     
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