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「働きぶりはどこでも高く評価してもらったと思います。売上に貢献したという自負もあります。ただ、同僚や上司と揉めたり嫌がらせを受けたりして、仕事を離れるしかない状況になりました」
すべてそれが原因で辞めたわけではないが、この際、悪い面を強調しておく。
「オーナーにしつこく言い寄られて、というか力づくで関係を迫られそうになって、相手を殴ってその場で辞めたこともありました」
「オーナー? そいつ男か?」
「そうですけど、それが何か?」
むきになって言い返すと、片瀬は大きな手で自分のがっしりとした顎を撫でる。
「なるほどな。確かに、言い寄りたくなる男の気持ちもわからないでもないな」
「……何が言いたいんですか」
過去に働いた店での胸糞悪くなるような経験を思い出して、雫は顔を歪めた。
「男を誘ってる顔だ、みたいな変な言いがかりをつけてセクハラをするような人がいる店で働くつもりはありません」
自分はゲイではないと思う。いや、性別を問わず、そもそも恋愛自体ぴんとこない。それなのになぜか昔から、その手のことを言う勘違い男に言い寄られることが多かった。
だが、そのまま椅子を蹴って立ち上がろうとしたところを片瀬に止められる。
「まあそう癇癪を起こすな」
雫が面接を受けていたのは、店の客席の一角だった。片瀬はそこから後方を振り返ると、カウンターの中にいた眼鏡の男を呼ぶ。
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