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それでも、店の経営が軌道に乗るまでは自分が役に立てる余地もあるだろうと思える。
だが、些細なことがきっかけで、雫はこれがそんな長閑な話ではなかったことに気付く。
梅雨の晴れ間で、日中の最高気温は三十度近くまで上がった。雫は初めて訪れたらしいカップル客に、きりっと辛口の白ワインに合わせて、例のマンゴーの前菜を勧めた。
「あ。マンゴーとベーコンの取り合わせって美味しいですよね」
女性の方がそう言い出したので、雫はおや、と思う。
「えー。想像つかねー」
男性の方はぴんとこないようだ。
「本当だって。先週アキちゃんたちと『フォルテ』っていうお店に行ったら、同じメニューがあったの。美味しかったよー」
「ふうん」
男性の方もそれ以上反対する理由はなかったらしい。雫のお勧めのワインと一緒に、二人とも味には満足してくれた様子だった。
だが、雫はなんだか引っかかって、帰宅後にスマートフォンで検索してみたのだ。
「……やっぱり」
嫌な予感は当たっていた。
女性が言っていた「フォルテ」というのは、例の城山の支店だった。若い層をターゲットにしたバルスタイルの店のようだ。
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