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口元にはからかうような笑みを浮かべているが、目は真剣だ。
「安心しろ。俺はバイセクシャルで手も早いが、恋愛感情を持っていない相手にちょっかいを出すほど暇じゃない」
反射的に、この熱量の高い男に迫られるところを想像してしまった。飲んだばかりのワインの香りが喉の奥に甦って、むせ返りそうになる。
冗談じゃない。
「今の説明で安心できるわけないでしょう」
「ほう、どうしてだ」
「あんたが俺に恋愛感情を持たないっていう保証はどこにあるんですか」
こういうのを、売り言葉に買い言葉というのだろうか。
「なるほど。ないな、確かに」
片瀬は急に薄笑いを引っ込め、真顔になる。
「まあ、そんときは責任を持って永久就職させてやるから」
どうやら本気で言っているらしい。
「……それだけは遠慮します」
頭を抱えてテーブルの上に突っ伏す雫の耳に、稲村が吹き出す声が聞こえた。
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