§12

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§12

 週末の「夜の猫」は久しぶりの盛況だった。土曜日に続いて日曜日も、満席のために何組か入店を断らなくてはならなかったほどだ。  フロアを行き来していると、客席の会話が聞くともなく耳に入ってくる。 「『フォルテ』のオーナーって人、覚せい剤で捕まったんだってね」 「脱税の疑いもあるとかいう話だよ」 「店、潰れるんだろうな」  そんな噂を耳にしながら、雫は城山の店で働いていた従業員に同情する。そして、片瀬のこの店で働ける自分の幸運を噛みしめる。 「あー、本当にシズ君が辞めないでくれてよかったよ」  日曜日の閉店後、店内を片づけながら稲村が安堵したような溜息をついた。 「お騒がせして、すみませんでした」 「いやまあ、犀利さんが予定を全部キャンセルしてすぐに帰国するって言うのを聞いて、それなら大丈夫だろうな、とは思ったけどね」  箒を片手にした稲村が、にやりと笑って眼鏡越しに片目をつむる。 「オーナーは、藤倉のこととなると殺気立つからな」  厨房から布巾を干しに出てきた長谷川までが、そんなことを言う。 「その、確かに、店を辞めなくて済んだのはオーナーのおかげではあるんですが……」     
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