§2

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 ワインバー「夜の猫」は東京の東側の、最近になって再開発の進んでいる一角にある。  天井の高い建物は、かつて材木屋の倉庫として使われていたらしい。その内部をいくつかのコーナーに区切り、それぞれ少しずつ趣きの違う空間に仕立てている。八席あるカウンターには、小ぶりのレトロなペンダントライトが下がる。テーブル席の部分はゆったりとスペースが取ってあり、シャープでモダンな雰囲気。そして、カウンター脇の階段を上がった二階はソファ席のある半個室で、カフェのように寛げる造りになっている。  凝った内装だと思ったら、稲村はかつて輸入インテリア雑貨店を営んでいたという。 「だから、実を言うとワインは門外漢でね。今必死に勉強中なんだけど、藤倉君みたいに詳しい人が入ってくれると心強いよ」  初日にそんなことを言われて雫は面食らった。色々な店で働いてきたが、新人に対してこんなに腰の低い店長は見たことがない。 「それがどうして、ワインバーの店長に?」 「いやあ、犀利さんに口説かれちゃってね。あの人、俺の大学時代の先輩なんだ」  片瀬はああ見えて、かなり面倒見のいいタイプらしい。     
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