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遅刻ギリギリで出社すると、魔王はもう特等席に座っていた。髪型もスーツもキマっていて、いつもと何も変わらない様子。私は猛ダッシュで来たから汗だくだと言うのに。それだけで何だか腹が立った。
「…おはようございます、」
「ん、おはよう」
パソコンから目を離さず、無表情で返事する魔王。昨日の可愛い笑顔はどこに行った?同一人物か?と疑いたくなる。
「よーし、じゃあ始めよう、」
部長が立ち上がると、企画部の社員が全員立ち上がった。いつも部長の号令で、朝礼が始まる。
「じゃあ昨日の報告から、佐野」
「ハイ、まずブライダルフェアの件ですが、」
順番に昨日の報告がされていく。そして最後に、部長が締め括った。
「例の社内コンペの件、締め切りも近付いて来たので、それぞれ抜かりなく用意しておけよ。じゃあ今日はこれで解散、」
席に着こうとすると、部長に「佐倉!」と呼ばれた。慌ててデスクの前に駆けていく。と、魔王は既にキーボードを叩いていた。目も合わせないまま、話す。
「午後から少し身体が空いたから、コンペの企画書、指摘したところを直して13時に持って来い」
「えっ、でも、提出は2週間後では…?」
すると珍しくパソコンから目を離し、眉を寄せた。
「…ニブい奴だな、見てやるって言ってるんだ」
「えっ、」
「分かったらさっさと修正して来い、」
「は、ハイ!」
すると背後から口々に声が上がる。
「えっ、佐倉だけズルイ!」
「部長、俺も企画書見て下さい!」
「私も!」
魔王は小さく溜め息をついて、またパソコンの画面に視線を戻す。
「…13時から、1時間だけだ。時間がある限りは見てやるから、出来た奴から持って来い、」
やったあ!と歓喜の声が上がる。部長の人望は凄い。これだけ部下に慕われているなんて。
また1つ、悔しい思いをして。私は席に戻った。
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