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ーーー誰のために企画してる?
デスクに向かって、ずっと考え込んでいた。
そんなこと言われても、いつも企画を通すために必死だ。今も、何とかしてコンぺで選ばれたいという気持ちでいっぱいで。誰かのために、なんて考えている余裕はない。
「っだーもう!」
頭を抱えて突っ伏すと、上から笑い声が降ってきた。
「おうおう、煮詰まってんなあ、」
その呑気な声の主は結城だった。
「なに?冷やかしならもういいんだけど、」
「違ェよ、打ち上げ兼ねた同期会、今週末になったからな、」
「何で今週末?来週じゃなかったの?」
「製作がヤバイらしくてさ。来週は帰れないかもだから、今週にしてってよ、」
「ああーっそう、分かりましたよ」
不機嫌そうに返事して、企画書に目を落とす。と、それをヒラリと奪われた。
「なっ、ちょっ、返してよっ!」
「まあ待て。俺のフラットな視点から意見を述べてやるよ、」
「…アンタに分かんの?」
得意気な彼に嫌味を言ったけど、意外にも的を射た意見か返ってきた。
「…コレ、参加者は誰な訳?」
「えっ、」
「企画は面白いけどさ、誰かが参加してるイメージが湧かねえ、」
さっき、部長は「景色が見えない」と言った。きっとそれは、結城が言っていることと同義だ。
「ぶ、部長が、誰のために企画してるか考えろって言ってたんだけど…」
「ああ、さすが巽さん!言ってること分かるわ!」
「な、何で?何で分かるの?」
すると結城は更に得意気になって、企画書を返してきた。
「俺、運営部だから。そのイベントに参加してるお客さんを、一番近くで見てるからな。そういうの考えた方が良いんじゃね?」
「…難しいな、」
「コンセプトは、2人で美味しい、なんだろ?だったら、お前が誰と参加したいか考えてみたら?」
「誰と…、」
「俺、部長になれるかも?」なんて。鼻歌混じりに、結城は自分のデスクに戻った。
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