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「カンパーイ!」
ビールジョッキを、ゴンッと音を立ててぶつける。今日は同期会だ。
「結城のお陰で部長に褒められたよ、ありがとう~!」
「ホラな、俺の実力なめんな?」
「なめてる!なめまくってる!」
「でもあの巽 静佳に褒められるなんて、絶対嬉しいよなあ」
「あの人、ずーっと無表情だもんな、」
「褒められた時も無表情だったよ、」
「笑ったの見たことある?」
ギクリ、と肩が跳ねた。笑ったのを見たことがあるから。みんなが知らない彼の笑顔を、私だけが知っている。そう思うと、なんだか口元が緩んだ。
「俺らの出世頭、佐倉主任!もっといけるだろ!」
久しぶりに全員集まったので、お酒が進む。次々とビールを追加され、ヤバイなと思いながらも飲み進めてしまって。
私はまた、意識を手放してしまった。
目が醒めると、今度は自分の家だった。
「佐倉、大丈夫?」
そう声を掛けてくれたのは朝比奈だった。
「う…何で?」
「アンタが酔い潰れたから、心配で起きるの待ってたんだよ!」
「ご、ごめん…」
「ホラ、水!」
「ありがと、」
身を起こして、水をあおる。それはひんやり冷たくて、火照った体に沁みた。
「重かったでしょ、ごめんね…」
「ああ、それは大丈夫。巽部長が送ってくれたから、」
「ええっ?」
一気に酔いが覚めた。何故そこに魔王?どっから湧いて出た?
目を見開いていると、朝比奈が笑った。
「私もビックリしたよ。アンタが机に突っ伏して動かなくなったら、何処からか颯爽と現れて。飲めない奴に、しかも女の子に飲ませるなんて感心しない、なんて言って、アンタをお姫様抱っこして、」
「お、お姫様抱っこ…!?」
「もう、みんな唖然。格好良かったよー、王子様みたいで。で、私は付き添い」
訳が、分からなかった。確かに私は部下だけど、そこまでしてもらう覚えはない。
「で、部長は…?」
「さっさと帰ったよ。あとはよろしくって。なに、アンタら付き合ってんの?」
慌てて、首を振る。と、少し頭がガンガンした。
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