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夜、焼肉屋にて。私はもの凄く分かりやすく落胆していた。なぜなら、部長と席が遠く離れてしまったからだ。しかも、部長は女性社員に囲まれているうえに、会社で居るのと同じ無表情で。眺めていても何も楽しくない。
不貞腐れてチビチビ飲んでいると、同僚が「主役なんだからもっと楽しそうにしろよ!」と背中を叩く。
分かってる、分かってるけど。
部長への気持ちを自覚してから、どうしても2人で飲んだ夜を思い出してしまう。最終的に記憶は飛んでしまったけど、2人きりでゆっくり話せて楽しかったなって。会社で話すだけじゃ物足りない。またあんな風に2人きりになりたいと思ってしまう。
「ちょっと、ごめん、」
外の空気が吸いたくて、席を立った。
寒空を見上げていると、後ろから声がした。
ーーーこんな寒いところで何してる?
振り返ると、意中の人が立っていた。
「ぶ、部長…、」
「上着も着ないで、風邪引くぞ」
そう言って、フワリ、とジャケットを掛けてくれた。大きくて、肩から落ちそうになる。それだけで心臓がバクバクと壊れそうな音を立てた。
「今日はあんまり飲んでないみたいだな、」
「ハイ、2度も失敗してるので…」
すると、例の笑い声が降ってきて。慌てて見上げると、クシャクシャの笑顔がそこにあった。また胸がキュンと音を立てる。
さっきまで、無表情だったくせに。
何で私の前でだけ微笑うの?期待するじゃん…!
「さ、寒いですね、戻りましょう、」
誤魔化すみたいに、部長の横を通り抜ける。いや、通り抜けようとしたけど、途中で段差に躓いた。
「わっ…!」
勢いで、部長の胸に倒れ込む。
「す、すみませ…!」
慌てて離れようとしたけど、部長の腕がそうさせてくれなかった。優しく、私の身体を包み込んだのだ。
私の頭はパニックだった。
いま、部長にハグされてる…?
「…えっ、ぶ、部長…?」
「……悪い、」
パッ、と部長の身体が離れた。途端になくなる温もり。何だか、一気に寂しくなった。
「…戻ろう、みんな待ってるから」
そう言って、彼は背を向けた。
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