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その後は、ずっと部長のことを考えていた。
さっき、確かに抱きしめられた。だって、まだ身体に感触が残っている。
あんなことされたら、余計に期待してしまう。
しかも彼は、自分の席に戻ると、また例の無表情に戻っていた。
ホラ、やっぱり私の前でだけ微笑うんだ…!
部長にとって、私は何?ただの部下?
部長は、ただの部下にハグするの?
今すぐ駆け寄って、問い詰めたい。だけどそんなことは出来る訳もなく。
今、私の荷物の横に、部長のジャケットがある。後で返しに行くから、その時に訊こう。
そう心に決めて、チャンスを伺っていた。
終電が近付いて、電車通勤の人達がチラホラと帰り始める。それを見計らって、部長が「そろそろ解散しよう」と声をかけた。
店の前で、「お疲れ様でした!」と、それぞれ帰路につく。だけど私は最後まで微動だにせず待っていた。
そして、2人きりになる。
「…君は、帰らないのか?」
「…ジャケットを、お返ししたくて…」
苦し紛れに言い訳して、差し出す。すると部長はコートを脱いでジャケットを羽織り、またコートを着た。
「ありがとうございました、」
「ああ。もう遅いから、早く帰りなさい」
そう言って、タクシーを止めるために手を挙げる部長。
「…駅まで送ろうか?」
躊躇いがちに尋ねられたけど、私は首を横に振った。そして、意を決して言った。
「終電を逃したので、部長の家に泊めて下さい、」
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