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「…佐倉、もう少し肩の力を抜いたらどうだ?」
「…ご忠告ありがとうございます、次は部長を驚かせる企画を打ち出しますから」
言い放つと、思い切り溜め息を吐かれた。片手で頭を抱えている。そして、私の目を真っ直ぐに見た。そんな風に見られることもないので、少し狼狽える。
「なっ、何ですか…?」
「…行くぞ、」
「へっ?」
「飲みに行くぞ、」
「は、はあ?」
ズンズンと事務所を抜ける魔王。私が立ち尽くしていると、振り返って言った。
「何してる。上司命令が聞けないのか?」
「…コンプライアンス違反ですよ、それ!パワハラです!」
「本当にパワハラだと思ってたら、そんな事は言わないだろ、」
その通りだったので、また言い返せなくなる。と、笑い声がした。驚いて、目を見開く。あの、冷酷非道の魔王が、声を立てて笑ったのだ。
「…本当に、君は苛め甲斐がある、」
端正な顔をクシャクシャにして。その笑顔は無邪気な子どもみたいだった。
何故か赤面してしまって、慌てて目を逸らす。
「…サッと飲んで、サッと帰りましょう、」
「せっかく企画の相談聞いてやろうと思ったのに、」
「……それは是非、よろしくお願い申し上げます」
するとまた笑い声がして。今度は顔が見れなかった。
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