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部長が連れてきてくれたのは、明らかに高そうな鉄板焼きのお店。カウンターに座ると、目の前にシェフが立っていた。
「とりあえず生と…君は?」
そう言って、メニューを差し出す部長。「カクテルはこっち」と慣れた手つきでページをめくる。その一言に、カチンときた。
「私、お酒、飲めますからっ!」
メニューをパタンと閉じて、「私も生1つ!」と人差し指を差し出す。とにかく、魔王に弱いところは見せまいと、ペースを合わせて飲むことを心に決めた。
「…で?企画書はどこまで進んでる?」
今度の社内コンペは、バレンタインに向けて製菓会社が出す新商品の販促イベントの企画案。最優秀に選ばれた企画が、実際にイベントとして運営される。しかもその発案者がプロジェクトのリーダーになると言うのだから、ここは絶対に外せない。
「このチョコのコンセプトが、“2人で美味しい”なので、カップルに限らず親子や友達同士のペアで楽しめる企画にしようと思ってるんですけど…」
「…なるほど、」
言われて話し始めると、的確なアドバイスを貰えて、悔しいけど流石だなと思ってしまった。その歳で部長に上り詰めただけはある。彼がまだその職につく前に出した企画は、洗練されていて文句のつけようがないものばかりだ。
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