部長と私★

7/32
前へ
/374ページ
次へ
「…悔しい、」 「…何が?」 「だって部長、何でも出来るじゃないですか、」 お酒も進み、そんな事を呟いてしまっていた。「酔ってる?」と顔を覗き込まれる。 「まだ酔いません、こんなのでは…!」 「…無理しなくて良いのに、」 「まだまだ飲みますっ!」 追加で頼んだ赤ワインと、ミディアムレアに焼けたステーキが目の前に置かれる。 「部長、みんながなんて言ってるか知ってます?」 「君が魔王って呼んでるのは知ってるよ、」 思わず吹き出しそうになったけど、グッと堪える。まさか、バレていたなんて。結城の言う通り、もう少し警戒すれば良かった。 「そっ、その事では無くて…恋人に関して、」 「ああ、それか…俺はゲイらしいね?」 「あ、知ってたんですね…」 そんな噂されて、よく平然としていられるなと思った。本当でもそうでなくても、どっちでも失礼だ。そんなこと個人の自由だから放っておけばいいのに。 だけど部長は、思いもよらないことを呟いた。 「どちらかと言うと、俺は女の子が大好きな方だと思うんだけどな…」 今度こそ、本当に吹き出した。その勢いで噎せる。と、おしぼりを差し出してくれた。 「そんなに面白いか?男なら普通だろ?」 「普通ですけど…意外過ぎて、」 おしぼりを受け取って、口の周りを拭く。不意打ちはやめて欲しい。部長ってこんなフランクに話す人だったんだ、と驚いた。 「女の子が大好きな割に、そういう噂は無いですよね?」 「…仕事に影響すると厄介だから。ここ数年は自粛してる、」 「へえ、そうなんですか」 私と一緒だな、と思った。 学生時代から付き合っていた彼氏は、デートより仕事を優先したら、あっけなくフラれた。「俺と仕事、どっちが大事なんだよ?」なんて女々しい台詞付きで。 そこから全部面倒になってしまって、好きな人すらできないまま、もう3年が経つ。 「私も、同じようなモノです」 「…そうか、ならコンペは頑張らなきゃな」 そう言って、見たこともない綺麗な顔で微笑うから、不覚にもまた赤面してしまった。
/374ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12866人が本棚に入れています
本棚に追加