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「…悔しい、」
「…何が?」
「だって部長、何でも出来るじゃないですか、」
お酒も進み、そんな事を呟いてしまっていた。「酔ってる?」と顔を覗き込まれる。
「まだ酔いません、こんなのでは…!」
「…無理しなくて良いのに、」
「まだまだ飲みますっ!」
追加で頼んだ赤ワインと、ミディアムレアに焼けたステーキが目の前に置かれる。
「部長、みんながなんて言ってるか知ってます?」
「君が魔王って呼んでるのは知ってるよ、」
思わず吹き出しそうになったけど、グッと堪える。まさか、バレていたなんて。結城の言う通り、もう少し警戒すれば良かった。
「そっ、その事では無くて…恋人に関して、」
「ああ、それか…俺はゲイらしいね?」
「あ、知ってたんですね…」
そんな噂されて、よく平然としていられるなと思った。本当でもそうでなくても、どっちでも失礼だ。そんなこと個人の自由だから放っておけばいいのに。
だけど部長は、思いもよらないことを呟いた。
「どちらかと言うと、俺は女の子が大好きな方だと思うんだけどな…」
今度こそ、本当に吹き出した。その勢いで噎せる。と、おしぼりを差し出してくれた。
「そんなに面白いか?男なら普通だろ?」
「普通ですけど…意外過ぎて、」
おしぼりを受け取って、口の周りを拭く。不意打ちはやめて欲しい。部長ってこんなフランクに話す人だったんだ、と驚いた。
「女の子が大好きな割に、そういう噂は無いですよね?」
「…仕事に影響すると厄介だから。ここ数年は自粛してる、」
「へえ、そうなんですか」
私と一緒だな、と思った。
学生時代から付き合っていた彼氏は、デートより仕事を優先したら、あっけなくフラれた。「俺と仕事、どっちが大事なんだよ?」なんて女々しい台詞付きで。
そこから全部面倒になってしまって、好きな人すらできないまま、もう3年が経つ。
「私も、同じようなモノです」
「…そうか、ならコンペは頑張らなきゃな」
そう言って、見たこともない綺麗な顔で微笑うから、不覚にもまた赤面してしまった。
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