部長と私★

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「あの、その、部長…、えっと、その、昨日は…」 動揺してしまって言葉が出てこない。そんな私に、部長は穏やかな声で言った。 「俺の名誉のために言うけど、何もしてないから、」 「へっ?」 「俺はリビングで寝てたし。酔った部下に手を出す程、見境のない男じゃないよ、」 「えっ、あの、その…」 「信じるか信じないかは君の自由だけど、」 じゃあ、なんでこんな格好? 頭に浮かんだハテナが見えたのか、部長が付け足す。 「君、飲めないならそう言いなさい。強気でガンガン飲むから、飲めるのかと思って勧めたら歩けなくなって、」 「え、」 「タクシーまで運ぼうとしたら俺の胸で吐いて…仕方なくここに運んだって訳、」 「…マジですか…」 「服が汚れたから脱がせただけ。下着を見たのは悪かったよ、」 そう言って、部長は私の服らしきものを差し出した。几帳面な部長らしく、キッチリ畳んである。 「洗ってアイロンかけたから。これ着て早く帰りなさい。もう始発も動いてる、」 「も、申し訳ありませんでした…!」 土下座する勢いで頭を下げる。 部長に弱味を握られまいとペースを合わせたのに、かえって変なところを見られてしまった。悔しい、悔しすぎる。 頭を下げたまま唇を噛み締めていると、笑い声が降ってきた。見上げると、またあのクシャクシャの笑顔。 「…また、部長に弱味握られた!とか思ってる?」 「えっ、」 図星を突かれて驚いた。考えていたことが口に出てしまっていたのだろうか? アタフタしていると、「昨日、そればかり言ってたよ」と、まだ笑っている。 「部長に弱味は握らせません、打倒魔王!とか何とかかんとか、」 「えっ、」 「悪酔いするタイプみたいだから、あまり外では飲まない方が良いな」 そう言って、彼は部屋を出て行った。 最低だ、最低すぎる。悪酔いして絡んで、おまけに吐いて爆睡して。洗濯までして頂くなんて…! 慌てて服を着ると、リビングの部長にスライディングする勢いで土下座して。相手の反応も見ないまま、そのマンションを飛び出した。
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