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1.「ライブがあるから生きていける」
死ぬ時は、ユウキの音楽に埋もれて死にたい。
七色のスポットライトを浴びるステージを見上げ、斎藤美也子は震える胸を抑えながら祈った。
「推し活」なんて言葉が生まれるずっと前から、ずっとユウキを推して生きてきた。自室の三分の一を占拠するCDやライブBlu-ray、グッズ類が総額いくらかかったかなど、美也子には些末なことだ。
真っ直ぐ見つめる視線の先、七色の光を一点に集めたステージ中心にいるのは痩せた男。十本の長い指をひらひらと空に遊ばせ、キーボードを手繰れば、白と黒の鍵盤から虹色の音階が生まれる。 生み落とした主は青白い顔で繊細な印象を与えながらも、どこか気迫を漂わせてシンセサイザーを奏でている。
――キーボーディスト、鈴木ユウキ。
彼だけが、光の中にいる権利を持っている。
(今のピアノソロ、アドリブ!)
先日発表されたばかりの新曲を披露され、慌てて入手したばかりのオリジナルの音源を頭の中で再生する。
(間奏のアレンジが違う……? すごい、こんなバージョンになるなんて!)
この瞬間ユウキの指から放たれたばかりの音符が自分の耳へ届き、鼓膜をふるわせていると思うだけでドキドキした。
音楽はたった今、生まれている。ユウキの奏でる痛切さを受け止めように、両耳に全神経を集中させる。 一音だって逃せない。
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