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「いや、その、照明が眩しかったですよねー」
自分より五歳も年上の沙和に、学生のノリでちょっかいを出されるのはいつも通りだ。何か言いたげな上目遣いに、美也子はそ知らぬふりをする。
アンコール二曲でユウキ率いるバンドの公演は終了した。
場内の熱気で窒息寸前だった観客達がコンサートホールの外へと勢いよく散っていく。真空パックされた高密度の空気が夜の街に拡散していくと同時に、気温の低さに気付く。四月の夜は春と呼ぶには寒いが、ライブ後の火照った肌には気持ちいい。
美也子はカットソーの襟口をつまんで胸元に風を送りながら、沙和たちと会場近くのファミレスに向かう。お茶を兼ね、今日の演出やメンバーの一挙手一投足について語り合うのがライブ後の恒例だ。
「盛り上がって、ガンガン腕振り上げている隣でさ、ふっと見たら、真顔で泣いてるんだもん。マジ、驚いちゃったよ」
沙和は美也子が泣いていた話をやめる気はなく、美味しそうに煙草をふかす。
傍目も気にせずに泣いていたのを指摘され、恥ずかしかった。バラード曲でもなく、泣くようなタイミングではない時に泣いているなど情緒不安定みたいだ。
「美也ちゃんってば本当にユウキ好きだよねぇ。ユウキの演奏で泣くとか、健気過ぎぃ」
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