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「でも、ユウキもそれを分かっていてジュンを放置していたよね?」
「ユウキはジュンに甘すぎるにゃあ」
「で、うまいことアドリブ入れて、結局おいしいところ全部、ユウキが持っていってさ」
「シュウジとサポメンが可哀想。暴走ジュン王子と、絶対君主ユウキに毎回付き合わされてさぁ、やれやれだよ」
わざとらしく肩を竦める。麻衣はギターのシュウジ目当てだ。
「そうかぁ? シュウジって腹黒いから、付き合せてあげている俺、をちゃっかりアピールしていたじゃん。まじであざといんだけど!」
「あれ、可愛かった! シュウジのあのカメラ目線たまらんっ」
「はぁ? あの狙った感じが腹立つわ」
ライブ直後の会話は、熱に浮かされて語気が強くなりやすい。他のメンバーの批判とも取れる発言をして挑発し合うのはいつものことだ。
「ちょっと! 黙ってないで美也ちゃんも何か言ってやってよ」
また始まっちゃったな、と美也子が横目に見ているのを見逃さず沙和は美也子の腕に絡みつくと、
「ダメダメ、美也ちゃんはユウキに忠誠を誓ってるからにゃあ」
まるで敬虔な信者だと、バンドのリーダーであるユウキを一途に想ってきた美也子を麻衣は面白がる。自分だってそうじゃないか、言い返したいけれど口にはしない。
同じバンドを愛する者同士、諍いに発展することはない。所詮は、他愛のないじゃれ合いだ。
「同じものを好き」で、その気持ちを共有している。
何て平和な時間なんだろう。
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