1.「ライブがあるから生きていける」

7/12
前へ
/231ページ
次へ
 美也子がユウキ率いるバンドに出会ったのは、十五歳だ。  初めて「特別に好きな他人」が出来た。  それは二十九歳になった今でも変わらないし、それどころか、ユウキの紡ぐ音楽は美也子の皮膚に染み込み、血管の中を音符が流れて栄養となった。  言わば、思春期の美也子の背骨を作ったのはユウキだ。  キーボーディストのユウキがリーダーであるため、バンドの楽曲は電子音が特徴的で非現実感が漂う作品が多い。キラキラして、眩しい。  デビュー三年目にブレイクしたユウキのバンドは一定のファンを得、中堅のバンドとしてJポップで活躍し続けている。一過性のファンが消えていき、ユウキ達メンバーは「おじさん」と呼ばれる年齢になった。  けれど、星のような煌めきは、ずっと消えないまま美也子の世界を輝かせる一等星(ポラリス)のままだ。  次第にクラスメイトが話題にしなくなっていっても、必ず新曲を聴き、ライブに足を運んだ美也子は、SNSでファンとの交流を始めるのも時間の問題だった。  そこで最初に出会ったのが、年上の沙和だ。  最初はネット上で交換していたが、「会おうよ」と、ライブ会場で落ち合うのに時間はかからなかった。 「あー、美也ちゃんだよね?!」
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!

175人が本棚に入れています
本棚に追加