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大学一年生の八月、蒸し暑い日だった。白い綿のワンピースで現れた沙和は、美也子を見付けるなり迷うことなく下の名前で呼んだ。生地の白さと、体のラインを覆い隠したシルエットのワンピースのせいか、沙和は丸みを帯びた体つきをしていた。
(温和そうな人で良かった)
安心した直後、ライブ開演前に入ったコーヒーショップで沙和は有無を言わさず喫煙席へと連れて行った。
「美也ちゃん、十八歳だっけ。若いなぁ~!」
「……そんな変わらないですよ」
「五歳も上だよ? もうオバサンだよ」
「そんな、その」
「このあと麻衣も来るから紹介するわ」
気遣いは不要と言わんばかりに煙草を吹かした。すでに社会人の沙和の動作は、余裕がある大人に見えた。煙草をくゆらせる動作も、禁煙席がいいかを美也子に確認しないことも、自分のペースで話題を変える所も、全て。
美也子よりもファン歴が長く、デビュー前の狭いライブ会場から参加しているのを、沙和はメンバーのアンオフィシャルな情報まで長けており、ユウキやジュンの自宅と思しき場所や親族の事情を教えたりした。
「そっか、美也ちゃん知らないんだっけー!?」
と自慢気に話した。
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