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初対面で会話が途切れはじめ、所在無げにカフェオレをちびちびと飲んでいる矢先、甲高い声が二人のテーブルに降ってきた。
「ごめんごめん、待たせたっ!」
当時専門学生だった麻衣が合流した。こちらはバンドメンバーの舞台衣装に似た、ボディラインを強調したノースリーブシャツと黒いパンツで、走ってきたのか顔から汗が噴き出し、素肌に張り付くビニール地が暑苦しく見える。
「美也ちゃん、このうるっさいのが麻衣」
肩で息をしている麻衣を、沙和が指差して笑う。
仲が良いほど悪態付くのが沙和のパーソナリティだと熟知するまでは、悪意なのか愛情の裏返しなのか、反応して良いものか分からず、ただ黙って頷く。
「こらー。彼女困ってるじゃん。ま、うるさいのは本当だけど!」
キンキンと甲高い声が、より一層大きくコーヒーショップ内に響き渡った。意地悪で指摘されたことを、麻衣はむしろ褒められていると取っているようだった。
店内で悪目立ちしていないか、身を縮こませて周囲を見回す。けれど麻衣の邪気のない笑顔を見せられると、この人も悪い人じゃなさそう、と心の中で唱えた。
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