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「父上はなぜ狩りに連れていって下さらないのかしら」
窓辺の甕に活けられた雪白の胡蝶蘭。
その向こうに広がる水色の冬空を仰いで元公主は寂しく微笑んだ。
当年十六歳、この大国の皇帝唯一の娘である。
「この寒さですし、姫様がお怪我などなさるといけませんから」
年配の女官が温かな茶を器に注ぎながら答えた。
穏やかだが譲らない声だ。
「それは、父上も同じではないかしら」
甘やかな香りを含む湯気が漂い過ぎる中、公主は切れ長い瞳の長い睫毛を伏せた。
白玉じみた滑らかな手が翡翠の首飾りの先の小さな黒鳳蝶を封じ込めた琥珀を撫でる。
磨き上げられた黄金色の玉に閉じ込められた蝶は艶やかな翅は生けるが如し。
だが、決してもう翔ぶことはない。
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