第一章:琥珀の黒鳳蝶

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「父上はなぜ狩りに連れていって下さらないのかしら」  窓辺の(かめ)に活けられた雪白の胡蝶蘭。  その向こうに広がる水色の冬空を仰いで元公主(げんこうしゅ)は寂しく微笑んだ。  当年十六歳、この大国の皇帝唯一の娘である。 「この寒さですし、姫様がお怪我などなさるといけませんから」  年配の女官が温かな茶を器に注ぎながら答えた。  穏やかだが譲らない声だ。 「それは、父上も同じではないかしら」  甘やかな香りを含む湯気が漂い過ぎる中、公主は切れ長い瞳の長い睫毛を伏せた。  白玉じみた滑らかな手が翡翠の首飾りの先の小さな黒鳳蝶(くろあげは)を封じ込めた琥珀(こはく)を撫でる。  磨き上げられた黄金色の玉に閉じ込められた蝶は艶やかな(はね)は生けるが如し。  だが、決してもう翔ぶことはない。
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