5人が本棚に入れています
本棚に追加
FM76.0から長押しし、寄り道なしで79.5に向かう。
何故か、途中でステレオ放送を受信して、ディスプレイの表示がステレオマークだけになった。
ノイズも無く、あの女性の声だけが響く。
『……はい、ということで』
またあのパーソナリティか。選局ボタンを連打して周波数を変える。何故か、チャンネルが切り換わらない。
『……昨日、タグチさんを葬ってきましたー』
プラグを抜いてしまえばこっちのもの。コンセントから引っこ抜いた。
『……崖から車が落ちるように仕向けたの。逆さまになってたから、もう運転席はグチャグチャでしょうね』
何故だ? 電源は絶ったはずなのに、ラジオが流れ続けている。
『……ウメハラさんとニシノさんのときもそうだったから、事故として処理されるんだろうなー』
このパーソナリティ、以前にも殺人を犯していたという。しかも、全員を事故に見せかけて殺した。
田口 真里、梅原 結衣、西野 桜……3人ともFMラジオ局のパーソナリティ。それぞれ番組をもっていたが、梅原と西野が立て続けに事故死し、後輩にあたるアナウンサーが引き継いだ。
『……なんで私だけ番組をもてなかったんだろう。みんな同期だけどさ、やっぱり私が番組をもつべきだったと思う。3人とも面白くないんだもん』
公共の電波で、何故こんなことまで言えるのか。スタッフの目があるはずなのに。
『……まあ、捕まったりしないから大丈夫か。私、もう死んでるし』
「えっ」
俺は震え上がった。
まさか、俺はずっと、霊的な何かのトークを聞いていたというのか……?
ラジカセの電源は既に絶ってあった。俺はラジカセに拳を振り下ろした。力づくでも止めてやる。
『……これ、聴いてる人いるのかな? 生きてる間には叶わなかった、私の番組』
曲げた関節から血が流れた。ラジカセは壊れてくれない。電源ボタンも音量ボタンも反応しない。
もう、やめてくれ……!
ラジカセを殴り続けていると、急に頭がボーッとしてきた。
最初のコメントを投稿しよう!