FM

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FM76.0から長押しし、寄り道なしで79.5に向かう。 何故か、途中でステレオ放送を受信して、ディスプレイの表示がステレオマークだけになった。 ノイズも無く、あの女性の声だけが響く。 『……はい、ということで』 またあのパーソナリティか。選局ボタンを連打して周波数を変える。何故か、チャンネルが切り換わらない。 『……昨日、タグチさんを葬ってきましたー』 プラグを抜いてしまえばこっちのもの。コンセントから引っこ抜いた。 『……崖から車が落ちるように仕向けたの。逆さまになってたから、もう運転席はグチャグチャでしょうね』 何故だ? 電源は絶ったはずなのに、ラジオが流れ続けている。 『……ウメハラさんとニシノさんのときもそうだったから、事故として処理されるんだろうなー』 このパーソナリティ、以前にも殺人を犯していたという。しかも、全員を事故に見せかけて殺した。 田口 真里、梅原 結衣、西野 桜……3人ともFMラジオ局のパーソナリティ。それぞれ番組をもっていたが、梅原と西野が立て続けに事故死し、後輩にあたるアナウンサーが引き継いだ。 『……なんで私だけ番組をもてなかったんだろう。みんな同期だけどさ、やっぱり私が番組をもつべきだったと思う。3人とも面白くないんだもん』 公共の電波で、何故こんなことまで言えるのか。スタッフの目があるはずなのに。 『……まあ、捕まったりしないから大丈夫か。私、もう死んでるし』 「えっ」 俺は震え上がった。 まさか、俺はずっと、霊的な何かのトークを聞いていたというのか……? ラジカセの電源は既に絶ってあった。俺はラジカセに拳を振り下ろした。力づくでも止めてやる。 『……これ、聴いてる人いるのかな? 生きてる間には叶わなかった、私の番組』 曲げた関節から血が流れた。ラジカセは壊れてくれない。電源ボタンも音量ボタンも反応しない。 もう、やめてくれ……! ラジカセを殴り続けていると、急に頭がボーッとしてきた。
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