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外を眺めて煙草を吸っている姿を見ると、猫みたいだなと思う。
いつもの定位置のソファじゃなくて、街が見下ろせる掃きだし窓の近く。
カーテンをクッション代わりに窓枠の間に挟み込んで、少しだけ開けた窓の外へ、細く煙を吐き出している。
窓際に佇んで景色をぼんやり眺めている様は、SNSで流れてくる動画で良く見る獣の姿そのままで。
何考えてんだろうなぁって思うけど、この人の頭の中はいつも読めないまんま。
「なぁ、外の風冷たい?」
俺は洗い終わった食器を拭きながら、この家に主に声を掛ける。
「…んー」
義明はこっちを見ることもせず、どっちともとれる曖昧な返事だけ返してきた。
いや、生返事なのかもしれない。
ここで振り向いてにゃあって鳴けば、ホント猫みたいで可愛いのに。
「…にゃあ」
「は?!」
突然耳に飛び込んだ音に叫んで、咄嗟に手に持っていた布巾を空中に放り投げた。
え、あ、え、にゃあ?今こっち見てにゃあって言った?
え、嘘、思ってること口からだだ漏れだった俺?
そんな恥ずかしい心の声をそのまま喋っちゃってた俺?
知らない間に独り言増えた?
っつか待て待て、だとしても聞こえてて義明がそれに乗っかってくれたって…いやいやいや、そんなことあるわけな…
「おい。幸太郎」
「え?あ、はい!?」
思いっきり声が裏返ってしまった。
「何慌ててるんだお前」
煙草を灰皿に揉み消した義明が、怪訝そうな顔で俺を見ている。
「あ、いや、だってさっき義明が」
「俺が?」
「に…にゃあって鳴くから」
「はぁ?」
「え?」
義明の眉間に深く皺が刻まれるのが見えた。
「だれがンなこと言うか。「なあ」って声を掛けたんだ」
…あ、「なあ」ね。なぁ…にゃあじゃなかったんかい。
「煙草買いにコンビニ行くけど、お前も来るか」
「あ、うん、行く。アイス買って」
「アイスって…外の風冷えるぞ」
「いーの」
俺は床に落ちた布巾を拾うと、シンク周りをささっと拭いて縁にそれを引っ掛けた。
義明は「あ、そう」と言いながら掃き出し窓を閉めると、ガラスのローテーブルの上に置いてあった財布を引っ掴んで、さっさとリビングから出て行ってしまった。
にゃあって、言ってたと思ったんだけどな。
噛んだとか、ねぇかな。
いや、やっぱり俺の聞き間違いか。
それでも、うん、まぁ。
俺にはにゃあって鳴いたように聞こえたから…それでいっか。
…にゃあ。
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